東京高等裁判所 昭和40年(行コ)53号 判決 1967年11月27日
控訴人 丸山弘
被控訴人 建設大臣
訴訟代理人 坂井俊雄 外四名
主文
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は主文第一ないし第三項同旨の判決を求め、被控訴代理人は「控訴棄却」の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用および認否は、控訴代理人において、
「一、仮借地指定の通知書と仮換地指定の通知書とはそれぞれ表題が異つており、しかもそれぞれ添付図面によつてその対象となるべき場所が明確に表示されているのであるから、この二つの通知書がそれぞれ如何なる意味を有するものであるかは法律的素養のない者であつても十分理解ができるのであつて、これを合わせて一本の処分が行われたと観念する余地はない。
二、仮に、被控訴人において本件仮借地指定と本件仮換地指定の意味を十分理解することができず、両者を合わせて一本の処分が行われたと観念した上で本件訴願を提起したという事情があつたとしても、それは不服申立の対象となる処分についての法の誤解によるものであつて、かような誤解は訴願人本人の主観的事情によるものであつて、いわゆる「宥恕すべき事由」に該当しないものといわねばならないから、被控訴人の本訴請求は失当である。」
と述べ、
<証拠省略>
被控訴代理人において、
『仮に、本件仮借地指定処分に対する不服申立に際し、その処分の対象につき被控訴人に法の誤解があつたとしても、右処分に関連する他の処分、すなわち本件仮換地指定処分がなされたような場合において、この二つの処分の関連関係からして、その二つの通知書に記載されているどの期日を訴願期間の起算点とするかの点についての誤解は、広義の法律解釈に当るか否かは別として、訴願期間の計算上においては、事実に対する誤認と解すべきである。そして、被控訴人主張の原判決事実摘示の請求原因所渇の諸事情を考えると本件は訴願法第八条第三項にいう「宥恕すべき事由」に当るというべきであつて、控訴人の前記主張は失当である。』
と述べ、
<証拠省略>と述べ
たほか、原判決事実摘示と同一(但し原判決書二枚目表三行目に「昭和三四年二月七日」とあるを「昭和三四年二月七日」と、同じく五行目に「同年六月」とあるを「昭和三七年六月」とそれぞれ訂正する)であるから、これを引用する。
理由
原判決事実摘示のうち被控訴人主張事実(一)から(四)まで(原判決書一枚目うら九行目から同二枚目うら一〇行目まで)の各事実は当事者間に争いがない。
被控訴人の請求原因(五)の(イ)及び(ロ)の各主張につき当裁判所も原審と同じくこれを排斥するがその理由は原判決に記載してあるのと同一であるから、この都分の原判決の理由を引用する。
訴願期間の不遵守につき宥恕事由がある旨の被控訴人の主張について。
<証拠省略>によれば、「被控訴人は、本件土地区画整理事業施行地区第二工区について、その工区内にある従前の宅地につき借地権を有する関係人として、はやくから関心を寄せていたところ、昭和三六年一二月二三日頃地元の土地区画整理審議会委員から換地計画設計図を見せられて、被控訴人はその借地の替地となるべき土地が被控訴人の経営するアパートの敷地として不適当であると考え、昭和三七年一月二二日に所管の東京都第二区画整理事務所長にあててその旨の意見書を提出したが、同年六月一四日に被控訴人に到達した東京都知事からの通知書によれば、被控訴人の借地権について仮に権利の目的となるべき土地として、前記設計図のとおりの替地約五二坪を『街区番号七、仮換地符合三〇八の一』と表示して指定されていたので、被控訴人は、減歩率が高すぎ、従前の宅地とも照応しない指定であると考え、四月一九日東京都知事に対して本件仮借地を被控訴人の替地として受器できない旨記した『仮換地指定拒絶書』と題する書面を提出した。その後、翌二〇日に東京都知事から被控訴人宛の、被控訴人の賃借に係る従前の宅地を同一施行工区内の他の宅地のための仮換地として指定(本件仮換地指定)する旨の通知書を受け取つた。本件仮借地指定通知書と本件仮換地指定通知書とはいずれもその冒頭の文言は比較的酷似しているが、各通知書にはそれぞれ別紙図面が添付されていて、通知書の文言と別紙添付図面とを照応すれば右各通知書の内容は判明する程度のものであつた。しかし、被控訴人は、本件仮借地指定についての訴願を提起するにあたり、本件仮換地の指定の通知があつた昭和三七年六月二〇日から一ケ月以内に訴願を提起すれば足りると誤解して本件訴願を同年七月一七日に提起した。」という事実が認められるけれども、被控訴人主張の訴願法(明治二三年法第一〇五号)第八条第三項の規定は、その立法の経過および趣旨に徴し、少くとも期間経過後に提起された訴願を却下することは訴願裁決庁のいわゆる自由裁量に属する旨を規定したものと解されるところ、前記認定事実のみでは未だ被控訴人主張の控訴人の却下処分に違法ないし権限の乱用の点が存するとは到底認められないから、控訴人の右主張は採用できない。
尤も、行政処分に対しては広く国民に救済の道を開くことが望ましく、そのため現在は行政不服審査法(昭和三七年法第一六〇号、同年一〇月一日施行)が制定され、同法により右訴願法は廃止されており、右行政不服審査法によれば、「教示」の制度等(同法第五七条等)が存するけれども、前記認定のとおり本件訴願の提起は同法施行前に、本件裁決は同法施行後にそれぞれ行われたもので、本件訴願については、同法付則第三ないし第五項により同法の適用を除外されているのであるから、この点からも本件訴願却下裁決に特別の違法または権限の濫用があるとは認められない。
よつて、控訴人のした訴願却下裁決の取消を求める被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべく、これを正当として認容した原判決は不当であるから、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条に従い、主文のとおり判決した。
(裁判官 高井常太郎 満田文彦 弓削孟)